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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)706号 判決

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)株式会社大阪読売新聞社

右代表者代表取締役 務台光雄

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 塩見利夫

右訴訟復代理人弁護士 水野武夫

被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)株式会社大和百貨店

右代表者代表取締役 湯川雲敬

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 岡本拓

同 田浦清

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

控訴人佐藤武治郎は、被控訴人株式会社大和百貨店に対し金一七五、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人湯川雲敬に対し金五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

被控訴人らの控訴人佐藤武治郎に対するその余の請求(附帯控訴による拡張部分を含む)を棄却する。

被控訴人らの控訴人株式会社大阪読売新聞社に対する請求(附帯控訴による拡張部分を含む)を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らと控訴人株式会社大阪読売新聞社との間に生じたものは、被控訴人らの連帯負担とし、被控訴人らと控訴人佐藤武治郎との間に生じたものは二分し、その一を控訴人佐藤武治郎、その余を被控訴人らの負担とする。

この判決は第二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

控訴人らは、控訴につき、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき、「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。

被控訴人らは、控訴につき、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を、附帯控訴につき、「原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。控訴人株式会社大阪読売新聞社は、控訴人佐藤武治郎と連帯して、被控訴人株式会社大和百貨店に対し金五二二、〇〇〇円と金六二二、〇〇〇円に対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人湯川雲敬に対し金九〇、〇〇〇円と金一〇〇、〇〇〇円に対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。控訴人佐藤武治郎は、控訴人株式会社大阪読売新聞社と連帯して被控訴人株式会社大和百貨店に対し金三六〇、〇〇〇円と金六二二、〇〇〇円に対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人湯川雲敬に対し金五〇、〇〇〇円と金一〇〇、〇〇〇円に対する昭和三六年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、控訴人佐藤の責任

被控訴人株式会社大和百貨店(以下被控訴人百貨店という。)が東大阪市長堂一丁目六八番地において日用雑貨品および衣類等の販売を業とする会社であり、被控訴人湯川雲敬(以下被控訴人湯川という。)がその代表者であること、控訴人佐藤武治郎(以下控訴人佐藤という。)が控訴人株式会社大阪読売新聞社(以下控訴人新聞社という。)の発行する新聞等の販売を業とする布施販売店(直売所)の経営者であることは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すると、つぎの事実が認められる。

控訴人佐藤は、昭和三六年三月頃ゴールドサーカス団(経営者渋谷茂明)から、読売新聞の宣伝広告になるから布施地区でサーカスをやってはどうかという申入れを受け検討した結果、サーカス会場に「読売」の旗をかかげ或いは読者にサーカスの割引券を無料で配布するなどの方法でサーカスを通じて読売新聞の宣伝をし、販路を拡張するための一企画として、右申入れを承諾し、サーカス団との間に、控訴人佐藤においてサーカスの開催日、開催場所の決定および宣伝等を担当し、サーカス団において会場の使用料その他興業に要する費用を負担する約束で、同年四月五日から同月一五日頃まで三の瀬公園でサーカス興行を行なうことになった。訴外朝広哲朗は、控訴人佐藤の経営する直売所(読売新聞布施北直売所、当時専業従業員約二七名、それ以外の配達員約五〇名)の企画係長として、読売新聞の配達、集金、読者の獲得の企画に従事していた。朝広は、同年三月末頃かねてから読売新聞に広告を出していた被控訴人百貨店に赴き、その代表者湯川雲敬に、一枚一三〇円のサーカス入場券を一枚一三円で売渡すから、これを被控訴人百貨店の売上増進のため利用してはどうかと勧誘したが、なかなかその承諾を得られなかった。その頃サーカス団の企画担当者である小俣富美男から、商店の宣伝のためサーカスの象を市中行進させる企画を持ちかけられ、附近の若松市場や東洋デパートにこの旨の勧誘をしたのに引き続いて被控訴人百貨店においても宣伝のため象を三の瀬公園から被控訴人百貨店まで行進させてはどうかと提案し、これに対し被控訴人百貨店の方でも応じるということになって、同年四月三日頃訴外朝広と右湯川との間で、(イ)被控訴人百貨店は控訴人佐藤からサーカス入場券三〇〇枚を購入する、(ロ)控訴人佐藤は同年四月九日午後一時三の瀬公園から象を出発させて被控訴人百貨店までの間を往復行進させる、(ハ)行進させる象には被控訴人百貨店の名前入りの着物を着せ、その費用は被控訴人百貨店の負担とする、(ニ)被控訴人百貨店は象にリンゴ三〇個を与え象の附添人に若干の謝礼をする、(ホ)被控訴人百貨店は自費で折込みビラ一〇万枚を作り、読売新聞に折込んで配布するなどの話合いが成立した。一方控訴人佐藤は、サーカスの開催を決めた後、同年四月三日頃から本件象の行進予定日である同月九日頃まで東京へ出張していたため、帰店するまで被控訴人百貨店への象の行進の企画を知らなかったが、右出張前に同直売所の企画担当者にサーカス興行についての宣伝、チラシの取扱いなどについて指導するとともに、サーカス利用の一方法として象の行進もありうる旨示唆していた。朝広は、サーカス団の小俣からサーカスの象を行進させる企画を持ちかけられるや、同人に対し右行進が支障なく行なえるかどうか確かめたところ、以前にも同様の行進を守口や四貫島でしたことがあるが成功し警察の許可も大丈夫であるということであり、しかも被控訴人百貨店に先だち象の行進をすることにきめた若松市場(行進予定日同年四月五日)東洋デパート(同年同月八日)の分についてすでに小俣に一任していたので、被控訴人百貨店の分についても同じく小俣に任せておけば当然警察の許可が得られるものと考え、行進についての具体的企画および警察に対する許可申請等の一切を同人に任せ、被控訴人百貨店の代表者湯川および事務担当者福山フサ子らから警察の許可が得られるかどうか、就中被控訴人百貨店は、会場の三の瀬公園から約五〇〇メートル離れており、しかも途中に商店街、踏切りがあるなど若松市場、東洋デパートなどと比較し地理的条件が悪い(若松市場、東洋デパートはともに三の瀬公園から二〇〇ないし三〇〇メートルのところにあり、又若松市場までの行進予定路が比較的閑散な道路であったのに対し、被控訴人百貨店までの行進予定路は途中人通りの多い商店街や踏切りがあった。)が大丈夫かと確かめられた際も読売新聞が行なうのだから大丈夫であると回答していた。そして若松市場の行進は四月四日警察署長の許可を得て五日予定どおりに行なわれたが、比較的閑散な道路を行進したにかかわらず、多数の見物客が集り、子供らが行進に続き、一時バスの通行を止めるなど交通の妨害が生じたことなどもあって、同月八日小俣からなされた被控訴人百貨店への行進のための道路使用許可申請は、交通の妨害および行進予定道路が商店街で人通りも多く危険であることを理由に不許可になった(同月八日に予定されていた東洋デパートへの行進も不許可になったが、当日は雨のため問題が生じなかった。)が、小俣は右不許可の事実を朝広に知らせず、したがって朝広も右事実を被控訴人百貨店に通知しないまま行進予定日を迎え、同月九日午後一時、警察の許可がないまま象は一旦三の瀬公園を出発し、被控訴人百貨店へ向ったが、約一〇〇メートルほど進んだところで警察から行進中止を命ぜられ、再び三の瀬公園に引返し、右行進は不可能となった。被控訴人百貨店は、訴外朝広との間で前記象の行進についての話合いが成立した後、象に着用させる着物を用意し、又四月七日から同月九日の午前中まで宣伝車を使って広く象の行進を宣伝し、さらに象の行進の所要時間のクイズを記載したビラ一〇万枚を印刷のうえ、行進当日の新聞に折込んで配達させるなど各種の宣伝活動をしたので、行進予定時刻の同月九日午後一時頃には象の行進を見物するため遠方からも多数の人が被控訴人百貨店の内外に集り、その人数は店内に少くとも一五〇人位、店外に同じく二〇〇―三〇〇人に達していたが、前記のとおり右行進が警察により制止され不可能となったため、被控訴人百貨店は直ちに集っていた右顧客に対しその事情を説明したが、顧客の中には被控訴人百貨店の宣伝が虚偽であるとか誇大であるとかいって非難する者が続出し、そのうえ直接代表者湯川を面罵難詰した者もかなりあり湯川はこれらの者に対しあやまった。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

被控訴人らは、まず被控訴人百貨店に象の行進を約束したのは控訴人佐藤であり、同人には被控訴人ら主張の故意過失があるから民法第七〇九条の責任があると主張する。しかし、前記認定の事実によると、本件象の行進を被控訴人百貨店に勧め、その交渉にあたったのはすべて訴外朝広であって、控訴人佐藤は、朝広ら企画担当者にサーカス利用の一方法として象の行進ということも考えられる旨一般的な示唆を与えたことはあったが、朝広が被控訴人百貨店との本件象の行進についての交渉をしていた昭和三六年四月三日頃から行進予定日の同月九日頃まで東京に出張しており、帰店するまで本件象の行進が企画されていたことを知らなかったのであるから 控訴人佐藤に被控訴人ら主張の故意過失があったとは認めることができないので、右主張は理由がない。

控訴人らは、原判決が原審において被控訴人らが控訴人佐藤について使用者責任の主張をしていないのに右事実を主張したものとして判断しているのは違法であると主張する。被控訴人らは、原審の昭和四二年九月二五日付準備書面第一の(一)の主張に使用者責任の主張が含まれていると主張するが、この点は明確ではない。しかし、原判決には請求原因八として控訴人佐藤の使用者責任の主張の事実摘示があり、これに対する控訴人佐藤の答弁の記載がある。そして口頭弁論調書において明確にすべき事項以外の事項で判決に記載があるものは、同調書に記載がなくても明らかにこれに反する証拠がないかぎり、裁判官が口頭弁論において聞きとったものとみるのが相当である。そして右主張事実は調書をもって明確にすべき事項ではなく、他に反対の証拠もないから、右記載がある以上裁判官が聞きとったものとみるべきであるから、原判決には違法の点はない。

そこで控訴人佐藤の使用者責任について考える。

前認定の事実関係から考えると、訴外朝広は、象の行進がサーカス会場である三の瀬公園から被控訴人百貨店まで約五〇〇メートルにわたり、途中人通りの多い商店街や踏切りを通過して行なわれるのであるから、相当危険を伴い、又交通の妨害となるおそれがあることを当然予見しえたはずであり、かつ右行進に警察の許可が必要であることは、あらかじめ知っていたのであるから、象の行進を勧誘しこれを引受けるにあたっては、右行進が危険なく実施できるかどうか、警察がこれを許可するかどうか等を自ら確認し、すみやかに右許可を得るなど、支障なく右行進を遂行できるようにこれに必要な準備をなすべき注意義務を有していたと認められるのにかかわらず、これを怠り、サーカス団の企画担当者の訴外小俣が、以前にも同様の行進をしたことがあり、警察の許可も大丈夫であるといったのを軽信して被控訴人百貨店に本件象の行進を極力勧誘し、右契約締結後においても警察に対する許可申請等右行進に必要な準備一切を漫然と訴外小俣に一任し、前記のように被控訴人百貨店から右行進が可能かどうかを念を押して確かめられながら、自らは何らの措置をとることなく右行進が可能である旨確言し、行進予定日まで漫然と時日を徒過した過失により、被控訴人百貨店をして右行進ができるものと信じさせて前記のとおり種々の宣伝活動をさせ、その結査被控訴人らに後記のとおり損害を与えたというべきであるから、訴外朝広について不法行為の成立は免れない。控訴人らは、この点について、かつてこの種の行事に関与したことのない訴外朝広としては、専門業者たるサーカス団の企画担当者が象の行進について大丈夫である旨保障している以上、その言を信用し専門業者に一切を任せるのがむしろ当然であり、何ら過失はないというけれども、右行進に対する許可の有無を警察に照会するようなことは朝広において容易になしうることであって、これをサーカス専門業者に委ねてこと足れりとする理由はないから、控訴人らの右主張は採用できない。

ところで、訴外朝広が控訴人佐藤の被用者であることは、前記認定の事実から明らかであり、又前記認定の事実と原審証人福山フサ子、同朝広哲朗の各証言および控訴人佐藤本人の供述を考え合わせると、本件象の行進は、被控訴人百貨店の利益、宣伝のために企画された面があることももちろん否定できないところであるが、直売所としては、本件象の行進をさせることによりサーカスの入場券を被控訴人百貨店に買ってもらうことができ、これによってその入場券が多数の者に頒布され、本件サーカスを通じて読売新聞の宣伝および読者の拡大をはかりうるのであって、この意味で本件象の行進はサーカスの開催とともに読売新聞の販路の拡張のための宣伝活動の一環としての性格を有していることが認められるから、訴外朝広が被控訴人百貨店に本件象の行進を勧誘し、これが実施を引受けたことは、直売所の事業の執行としてなされたものというべきである。よって、控訴人佐藤は、訴外朝広の不法行為により被控訴人らが被った損害を賠償する義務がある。

二、控訴人新聞社の責任

被控訴人らは、まず被控訴人百貨店は、控訴人新聞社との間にも直接本件象の行進について前記内容の合意をし、したがって控訴人新聞社にその主張の故意過失があった旨主張するけれども、さきに判断したとおり、被控訴人百貨店に象の行進について勧誘交渉をし、これを引受けたのは訴外朝広であり、控訴人新聞社が直接これに関与した事実は、本件全証拠によるもこれを認めることができないので、控訴人新聞社は民法第七〇九条による責任を負う理由がない。

そこで、控訴人新聞社の使用者責任について判断する。まず、控訴人新聞社と控訴人佐藤(直売所)との関係について考える。≪証拠省略≫によると、控訴人佐藤は、控訴人新聞社からその発行する新聞等の供給を受け、控訴人新聞社との約定によってこれを一定地域(小坂、長瀬を除く旧布施市内)にかぎって専属的に定められた一定価格で販売することを業とするものであるが、経営および資金関係では控訴人新聞社から独立し、自らの計算においてその営業をしていること、したがって、両者の間には雇傭関係はもとより同一企業内部における本社と営業所ないし出張所というような関係もないこと、控訴人新聞社には販売局が設けられ、本社販売局に所属する販売店関係担当の社員は、読売新聞の販路拡張のために宣伝活動をしたり、直売所の力で行うことのできない宣伝に助力したり、必要に応じて直売所を巡回し、部数拡大のため直売所を督励したりすること、そして本件のサーカス興行について控訴人佐藤がサーカス会場として予定していた三の瀬公園は、控訴人佐藤が使用許可を申請したのでは管理者たる布施市長によって許可される見込みがなかったところから、控訴人佐藤の依頼を受けた本社販売局の直売所担当社員である大阪府下中部地区責任者丸山巌が、右公園を借りるについて助力し、「大阪読売新聞社丸山巌」ないし「株式会社大阪読売新聞社府下中部地区責任者丸山巌」なる資格で同公園の使用に必要な諸手続をしていることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫被控訴人らは、控訴人新聞社は、控訴人佐藤の販売店の営業について一定の場合には本社管理をすることができることになっていると主張し、原審証人島津広美の証言中には右主張にそうような部分があるが、右部分は当審における同証人の証言に対比してたやすく信用することができないし、また≪証拠省略≫によると、本社と販売店との間の契約書には、新聞の原価の支払を怠ったときは、本社は新聞販売契約を解除できること、契約が解除された場合直売所は購読者名簿その他必要な事項一切を本社に提出の上引継をすることなどが定められていることが認められるけれども、これらの約定は、新聞の公器性を尊重し敏速正確に新聞を配達するために設けられているものであって、この契約から本社管理制度があるということはできない。以上の事実を総合すると、控訴人新聞社と控訴人佐藤との間には使用、被用の使用関係があったものということはできない。また本件において、控訴人新聞社が朝広の行為について民法第七一五条の責任を負うためには、直接または間接に朝広に対し控訴人新聞社の指揮監督関係が及んでいる場合に加害行為がなされたものであることを要するところ、控訴人佐藤の販売店の従業員であった朝広に対し、直接または間接に控訴人新聞社の指揮監督関係が及んでいることを認めるにたりる証拠はない。よって、控訴人新聞社は、控訴人佐藤の被用者である訴外朝広の本件不法行為について使用者として責任を負う理由はない。

三  損害

(被控訴人百貨店の損害)

(イ)  物的損害

≪証拠省略≫によると、被控訴人百貨店は、本件不法行為により、本件象の行進の際象に着用させる予定で作った着物代金二、〇〇〇円および右行進の宣伝のため作った折込みビラの印刷代金六〇、〇〇〇円計六二、〇〇〇円の損害を被ったことが認められる。宣伝車による宣伝経費金六〇、〇〇〇円については、≪証拠省略≫によると、その主張のように二日半にわたり右宣伝がなされたことは窺えるけれども、損害額についてはこれを認めるにたりる証拠はない。

(ロ)  信用失墜による損害

≪証拠省略≫によると、被控訴人百貨店は、本件不法行為発生当時、資本金約一、二〇〇、〇〇〇円の株式会社組織のスーパーマーケットとして、主として日用雑貨品、衣類の販売を業としていたもので営業上顧客、同業者に対する信用がかなり重要な意味をもつ事業であったこと、被控訴人百貨店は本件象の行進が予定どおり行なえるものと考え、前記折込みビラ等を使って宣伝したため、行進予定日時には象の行進を見物するため、被控訴人百貨店の内外に少くとも三〇〇人ないし四〇〇人の客が集ったこと、ところが本件不法行為により象の行進が実行できなかったため、被控訴人百貨店は、虚偽の企画を流布したような結果になって顧客、同業者等に対する社会的信用を失墜したこと、などの事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫以上認定の被控訴人百貨店の事業の規模および内容、宣伝の程度、態様等諸般の事情を考慮して被控訴人百貨店が信用失墜により被った損害は、金銭に評価すると、金二〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(ハ)  以上のほか被控訴人百貨店は、本件象の行進予定日に外交販売を中止したことにより得べかりし利益金一〇〇、〇〇〇円を失った旨主張するが、これを認めるにたりる証拠はない。

(ニ)  よって、被控訴人百貨店は、合計二六二、〇〇〇円の損害を被ったものと認められる。

(過失相殺)

≪証拠省略≫によると、本件象の行進が警察によって許可されるかどうかの点については、被控訴人らは、訴外朝広に念を押したにとどまり、それ以外に警察署に照会するなどの措置をとらなかったことが認められる。さきに一において判示したように、交通事情等から考えて本件象の行進は、警察の許可がたやすくえられないような状況にあったのであるから、被控訴人百貨店においてもあらかじめさらに警察署に照会する等の手続をすれば、本件損害の発生は防止することができたのに、これを怠ったことは、被控訴人百貨店にも過失があったというべきである。そこで、控訴人佐藤に対する関係でこれをしんしゃくして損害賠償額は、金一七五、〇〇〇円と定めるのが相当である。

(被控訴人湯川の損害)

さきに認定したように、象の行進が不能となったため、被控訴人百貨店の代表者湯川は、直ちに百貨店の内外に集っていた顧客に対し、その事情を説明したが、顧客の中にはこれを不満として直接被控訴人湯川に対し、被控訴人百貨店の宣伝が虚偽であるとか誇大であるとかいって非難し抗議する者があり、被控訴人湯川は、これに対しあやまったことがあり、そのため精神的苦痛を受けたことは認められるが、この際の顧客の非難は、被控訴人百貨店および被控訴人湯川個人の両者に対し一括して、しかも主として被控訴人百貨店に対してなされたものであり、したがって被控訴人湯川個人の精神的損害は被控訴人百貨店の信用失墜に対する損害賠償により軽減される関係にあるものというべきであり、これらの事情を考慮すると、右の精神的苦痛に対する慰藉料は金五〇、〇〇〇円が相当である。

(謝罪広告について)

≪証拠省略≫によると、本件象の行進が不能になったことにより被控訴人百貨店の名誉、信用(社会的評価)がある程度失墜するに至ったことが窺われるが、既に判示したところにより明らかなとおり、右名誉、信用の失墜は、一面被控訴人らの不注意にも基因しているのであり、又本件不法行為後既に相当の日時が経過していることを考え合わせると、現在において謝罪広告の掲載を命ずるのは相当ではなく、前記信用失墜による金銭賠償を認めることでたりると認められるので、被控訴人百貨店の右主張は採用できない。

四  被控訴人らは、控訴人新聞社が控訴人佐藤および販売局員丸山巌に対し控訴人新聞社名を使用して営業ないし読売新聞の宣伝をすることを自由に許しており、被控訴人らは、控訴人新聞社の営業として象の行進についての契約を締結したから、控訴人新聞社には名板貸責任があると主張するけれども、控訴人佐藤の使用人である訴外朝広が、被控訴人百貨店との間に本件象の行進についての契約を締結するに際し控訴人新聞社名を使用し、そのために被控訴人百貨店が控訴人新聞社を相手方と誤信して右契約を締結したという事実は、本件全証拠によるもこれを認めることができないので、被控訴人らの右主張は理由がない。

五  以上の次第であるから、被控訴人百貨店の本訴請求は、控訴人佐藤に対し金一七五、〇〇〇円およびこれに対する不法行為の後である昭和三六年五月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被控訴人湯川の控訴人佐藤に対する本訴請求は、金五〇、〇〇〇円およびこれに対する不法行為の後である昭和三六年五月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるので、これを認容すべく、その余の部分および被控訴人らの控訴人新聞社に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、控訴人新聞社の本件控訴は全部理由があり、控訴人佐藤の本件控訴は一部理由があり、被控訴人らの本件附帯控訴は控訴人佐藤に対する関係で一部理由があり、控訴人新聞社に対する関係では全部理由がないので、これと異なる原判決を変更することとし、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 宮本勝美 菊地博)

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